2011.7.21 翻訳

UIAA 登山倫理宣言


(1) 自己責任
登山・登攀は、事故の危険性の高いスポーツであり、事故が起こってもすぐ救助して貰える保証はない。それを十分自覚し て、自らの責任において行動し、自分の安全は自分自身で責任を持たなければならない。また、自分が原因で周囲の人たちを危険に曝す行為や環境を破壊する行 為を行ってはならない。たとえば、新ルート・既存ルートを問わず、アンカーを打ち込んだままにして当然、とする行為等は、容認できるものではない。

(2) チーム精神
メンバーは、チームの調和を図るため、そのチームの要求と能力に応じてお互い譲り合うことが必要である。登山の成功は、仲間同士お互い助け合い励ましあって登るところに生まれる。

(3) 登山界
山道や岩場で出会う人は皆平等であり、誰もが互いに敬意を払わなければならない。
人里はなれた奥山や緊張する状況下においても、われわれは常に、自分が相手に望むことを、相手に与える姿勢で接しなければならない。

(4) 海外登山
外 国に出かけた時は、常に礼儀正しく、節度をもって振舞い、その国の人々や文化に配慮していることを示さなければならない。また、その土地の独自の登山倫理 やスタイルを尊重し、伝統的な倫理に反したり、ドリルで壁に穴を開けボルトを打ち込んだりしてはならないと決められた所は勿論のこと、そのような決りがな い所でも、そういう行為はしてはならない。聖なる山や聖なる場所に対しては敬意を払い、常に地域経済や人々に恩恵をもたらすよう努めなければならない。外 国の文化を経験し理解することも登山体験の一部である。

(5) 登山ガイドならびにリーダーの責務
山岳ガイド、そして、一般の リーダー、および彼らに率いられたグループのメンバーは、お互いに、それぞれに決められた役割を理解すると共に、他のグループや個々の登山者の自由と権利 を尊重しなければならない。当宣言の中での、このような標準的な考え方は、職業的な山岳ガイド組織の活動の中で作り上げてきたものである。

(6) 死亡事故に繋がりかねない重大緊急事態
我々 は緊急事態や深刻な事故や死に至る状況を常に念頭に置いておかなければならない。山岳領域に入る全ての人は危険に遭遇する可能性を明確に理解し、それらに 対処する適切な技術・知識・装備を身に付ける必要がある。もしも生命にかかわる重大事故に遭遇した場合でも対応出来る心構えでいること。しかもそれは、連 鎖的に最悪の事態へと行きつくことになるかもしれない、という覚悟をもって事に当るべきである。特に商業登山の場合、緊急事態が起こったら、他人を助ける ために、自分たちの予定を犠牲にせねばならないことがあるかもしれないということを、あらかじめ顧客に対し警告しておくことが望ましい。

(7) 入山と自然保護
我々 は、責任ある行動で山や岩壁に立ち入る限り、立ち入る自由は基本的な権利だと考えている。また、自然に対して傷つけないよう配慮し、自然や景観を積極的に 保全するよう行動すべきである。我々は常に、自然保護団体や行政と一緒になって取決めた入山制限や規則を尊重しなければならない。

(8) 登攀スタイル
単に登頂に成功することよりも経験の質や問題解決能力を高めることの方がより重要である。また、常に山肌や岩肌に痕跡を残さないように努力しなければならない。

(9) 初登
初登攀や初登頂は創造的な行為である。それは、少なくともその地方の様式とか伝統に出来るだけ適ったやり方で遂行しなければならない。達成した登攀ルートは、正確に記録し報告すべきである。

(10) スポンサーの後援、および、広告、広報活動
山登り・岩登りをする者とスポンサーとの協力は、山岳スポーツに最良の利益をもたらすような職業的関係でなければならない。また、メディアと大衆の両方を積極的に教育し導いてゆくことは、山岳スポーツ界の責任である。

(11) 登山における補助酸素使用
高 所登山における補助酸素使用の是非は数年来の論争の種であった。この論争の争点は、医学的観点からと倫理的思考からの2点に分けられる。医学的観点は、全 ての登山者にとって最優先の関心事である。倫理的思考からは、酸素使用は個々人の判断に任すのがよく、もし使用するとしたら、空きボンベは持ち帰ることを 前提とした登山計画をたてるべきである、というものである。

(12) 商業的高所登山
商業登山ガイド、特に実力のない登山ガイ ドが8,000m峰や限られた救助施設しかない同程度の峰々を引率する場合、登山客の面倒をみるには限界があることを認識しておくべきである。顧客の安全 を確保するためには、あらゆる努力を講じるべきであり、また、山中で緊急事態に遭遇した場合には、その人々を助けるために、自分たちの計画を割愛せねばな らないこともあり得ることを、予め警告しておくべきである。